黒田緩和を偽薬だと気づいていない人に驚く 再び「美人投票」は起きるか … – 投信1

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日銀の異次元緩和は偽薬なのに、それに気づいていない人が多い、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は指摘します。

先日、『日銀はインフレ率2%にこだわらず超緩和を止めよ』を寄稿したところ、多くの賛同と共に、多くのご批判をいただきました。その主なものは、異次元緩和をやめたらデフレに逆戻りする、というものでした。これは意外でした。

黒田日銀総裁が異次元緩和を打ち出した時、「これで世の中に資金が出回り、物価や株価やドルが値上がりするだろう」と考えた人は大勢いました。株およびドルは、そうした人々が値上がり期待から買い注文を出したため、実際に値上がりしました。



しかし、実際には世の中に資金は出回りませんでした。日銀が銀行から国債を購入して代金の札束を銀行に送りましたが、銀行はそれを貸出に用いることなく、そのまま日銀に送り返してしまった(銀行が日銀に持っている準備預金の口座に入金した)からです。

つまり、「黒田日銀総裁の大胆な緩和で世の中に資金が出回り、事態が改善する」と信じた人々(失礼を顧みず、本稿では黒田教信者と呼びます)は間違えていたのです。しかし、彼らのおかげで株価やドルが値上がりし、景気が回復したのですから、これは素晴らしいことでした。

医学には「偽薬効果」という言葉があります。医者が患者に薬だと偽って小麦粉を渡すと病気が治癒してしまうことがあるそうなのです。病は気から、ですからね。今回は、これと同じことが起きたわけです。世の中に資金を出回らせることができない小麦粉を市場参加者に渡して、「これは世の中に資金を出回らせる薬だ」と言ったわけですから。

筆者は、黒田日銀総裁を「嘘つきだ」などと批判するつもりは毛頭ありません。まして、「小麦粉を薬だと信じていたヤブ医者だ」などと思ったこともありません。景気を回復させた「名医」であると高く評価しています。

余談ですが、筆者は元銀行員ですから、異次元緩和によっても世の中に資金が出回らないことを知っていましたが、株とドルを買って儲けました。美人投票の世界では、人々が誤った情報に基づいて行動している間は、その流れに乗った方が儲かるからです。投資元本が少額だったので大金持ちにはなりませんでしたが、何度か飲みに行きました。黒田日銀総裁に感謝しながら乾杯をしたものです(笑)。

今一つ余談ですが、食品のカブは人々が「来年食べる分も、今買っておこう」とは思わなかったので値上がりせず、インフレにはなりませんでした。株と異なり保管費用がかかること、株は大幅な値上がりが期待できる一方で、カブの値上がりは2%程度だと黒田日銀総裁が宣言していたこと、などが主な相違点でしょう。

皆が小麦粉だと知った以上、渡すのを止めるべき

筆者の主張は、「世の中に資金が出回っていないことは、マネーストック統計等々から人々が広く認識していることでしょうから、すでに異次元緩和は薬ではなく小麦粉だとバレています。それなら、小麦粉を渡すのをやめましょう。小麦粉だって、少しは害があるのですから」というものです。

筆者は、日銀の異次元緩和はメンツだけで維持されていると考えています。皆が小麦粉だと知っているし、日銀自体もそれを認識しているのに、単にメンツにこだわって小麦粉をバラ撒き続けている、といったイメージです。だからこそ、総裁交代のタイミングで政策を変更すべきだと考えているのです。

まさか、いまだに黒田教を信じている人が多数?

それに対し、「異次元緩和を止めたらデフレになる」という反論が来たのはどういうことでしょうか。彼らの多くは今でも黒田教を信じていて、異次元緩和で世の中に資金が出回ったと信じているのでしょうか。

そうだとすれば、日銀が出口戦略を考える際には大々的な宣伝が必要ですね。「じつは、異次元緩和は小麦粉でした。資金は日銀から銀行まで出て行っただけで、また日銀に戻って来たため、世の中には出回らなかったのです」ということを人々に周知した後でないと、出口戦略はとれませんね。出口戦略を検討し始めただけで市場が混乱する可能性がありますから。

しかし、日銀が自分で誤りを認めるはずはありませんから、これは難しいでしょうね。教祖(失礼)が信者に「私の宗教は誤りだから、もう信じるな」と言えるはずはないですからね。

ただ、筆者は黒田教信者が大勢残っているとは考えていません。異次元緩和の当初、今後起きることを予測できずに黒田教を信じてしまった人が多かったのは、仕方のないことだったのでしょう。しかし、すでに起きたことを冷静に分析して黒田教が誤りであることに気づくことは、今後を予測するよりはるかに容易ですから、多くの黒田教信者がすでに誤りに気づいて考えを改めているはずだ、と信じています。

黒田教信者より「美人投票」が心配かも

実際には、筆者を批判した人の中には、黒田教信者もある程度は残っているでしょうが、「美人投票」を恐れている人も多いようです。「日銀が出口戦略を検討し始めたら、黒田教信者ではない人も株やドルを売るだろうから、株やドルは大幅に値下がりするだろう」というわけです。

筆者自身、異次元緩和が始まった時に「黒田教信者が買うだろうから、その前に買おう」と考えて買ったわけですから、今回も「黒田教信者が売るだろうから、その前に売ろう」と考える可能性もありますし(笑)。

まあ、筆者は今回は売らないと思います。黒田教信者が少ないとすれば、美人投票的に売る投資家も少ないはずで、相場が崩れたとしても一時的なものにとどまるでしょうから。

もっとも、市場のことは筆者にはよくわかりませんので、当たる確率51%程度でしょうか。くれぐれも、読者におかれましては投資は自己責任でお願いします(笑)。

本稿は以上ですが、金融政策等々についての基礎的な事柄については、拙著『一番わかりやすい日本経済入門』をご参照ください。

なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義



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