中国版プラザ合意実現したら投機に走り中国製造業崩壊の危機 – BIGLOBEニュース

Home » 08物価 » 中国版プラザ合意実現したら投機に走り中国製造業崩壊の危機 – BIGLOBEニュース
08物価, 企業向けサービス価格指数 コメントはまだありません




 中国政府は、景気を下支えするために新たな減税策を決定した。減税規模は約6兆円に達し、これに伴い財政赤字が3兆円も拡大するとされる。中国経済の実態はかなり怪しくなっていると見られるが、悲劇的な「チャイナショック」はあり得るのか?

 大前研一氏は独自の視点から「中国経済インプロージョン(圧壊=内側に向かっての爆発)の激震に備えるべき」と警鐘を鳴らす。

 * * *

 FBI(連邦捜査局)のジェームズ・コミー長官の首を切ったことをきっかけに、ドナルド・トランプ大統領の首もにわかに怪しくなってきた。したがって世界経済もまた乱気流に放り込まれる危険性があるが、それとは切り離した事象として、このところ中国経済の行く手に暗雲が垂れ込めている。

 たとえば、中国の景気の先行指標とされる製造業の購買担当者景況指数(PMI)が4月に2016年9月以来7か月ぶりの低水準(50.3)となり、中国経済が下降トレンドに入るという見方が広がった。財務省の浅川雅嗣財務官は「中国経済の減速がグローバル経済にとって引き続き大きなリスクだ」と警戒を強めている。

 だが、今後の中国経済はマクロ経済指標の動きとは異なる観点から、大きな影響を受ける可能性が高い。それはアメリカのトランプ大統領が中国の習近平国家主席に4月の首脳会談で突き付けた「三つの要求」だ。

 一つ目は、アメリカの対中貿易赤字是正に向けた「100日計画」の取り組みである。これについては中国がアメリカ産牛肉の輸入を解禁したり、アメリカ企業の完全子会社による中国での電子決済サービスを認可したりすることなどで5月に一部合意した。

 二つ目は、「為替操作国」(為替相場を不当操作している国)に認定されたくなければ中国元をフロート制(為替レートの決定をマーケットに委ねる制度=変動相場制)にしろ、ということだ。もし、為替操作国に認定されたり、フロート制への移行を強いられたりしたら、中国にとってはパニック以外の何物でもない。だから習主席は貿易問題と後述する北朝鮮問題でアメリカに譲歩し、それを受けてトランプ大統領は中国を為替操作国に認定しないと表明したのである。

 そして三つ目は、北朝鮮の核開発をやめさせろ、ということだ。中国は北朝鮮の対外貿易の9割を占めているが、これまでは国連安全保障理事会が全会一致で採択した制裁決議に頬かむりしてきた。だから首脳会談でトランプ大統領は習主席に北朝鮮への影響力を行使して協力するよう要請したのである。実際、中国は北朝鮮が輸出した石炭を送り返したとされる。さらに中国は北朝鮮に対し、核開発をやめなければ原油の供給を止めると通告したと言われる。北朝鮮は原油の9割を中国に依存しているからだ。

 アメリカのメディアによれば、中国は金正恩を殺害して体制を崩壊させる「斬首作戦」は容認できないが、朝鮮半島近海に空母カール・ビンソンとロナルド・レーガンを展開して脅しをかけることや、北朝鮮の核施設をピンポイントで破壊することについては反応しない(中国軍は動かない)とアメリカに告げたという。したがって、アメリカは北朝鮮問題で中国と軍事衝突することはないと判断したようだ。

 この三つの要求をトランプ大統領に突き付けられた首脳会談直後の習主席は、まるで「電気ショック」を受けたかのように呆然としていた。しかし、その後、トランプ大統領が議会やメディアに追い込まれ、支持率が低下していく中で、中国が一部の約束を履行している点が数少ない成果になるとして、むしろトランプ大統領のほうが中国になびいてきているように見える。

◆“中国版プラザ合意”の破壊力

 トランプ大統領はツイッターで「北朝鮮問題で我々に協力している中国を為替操作国とどうして呼べようか」とコメントした。対中強硬派のピーター・ナバロ国家通商会議(NTC)委員長の影響を受けていた当初の立ち位置から見れば、大幅な後退だ。

 それでも米中経済交渉の行方は、中国に大きな影響をもたらす。

 かつて日本は日米貿易摩擦でアメリカから、1960年代後半の繊維製品を皮切りに、合板、鉄鋼、カラーテレビをはじめとする家電製品、自動車、半導体などで輸出の自主規制や数量規制および超過関税、農産物(コメ、牛肉、オレンジ、サクランボ)で市場開放を求められた。もし、中国が北朝鮮問題でサボタージュしたら、アメリカはそれと同じやり方で中国に圧力をかけるだろう。二国間協議では、トランプのようなワイルドな大統領でなくてもアメリカの攻撃は執拗だ。日米貿易戦争に匹敵する米中交渉となれば中国経済が大打撃を受けることは間違いない。

 一方、為替操作をやめろという要求に中国が応じれば“中国版プラザ合意”となる。

 日本は1985年のプラザ合意によって、為替のドル/円レートは1ドル=240円から急激にドル安・円高が進み、1987年末には121円台になってドルの価値は半減した。その後もドル安・円高の流れは止まらず、1994年に100円を突破し、1995年4月には瞬間的に79円台を記録した。固定相場制時代の1ドル=360円から見れば、円の価値は4.5倍になったのである。中国の人民元は2005年までの固定相場制時代は1ドル=8.28元だったので、4.5倍になったら1ドル=2元になってしまう。

 日本企業はプラザ合意後の急激なドル安・円高を、イノベーション、生産性向上、コストダウンの努力と生産の海外移転によって乗り越え、「為替耐性」をつけた。たとえば、日本の自動車メーカーは品質とブランド力の向上によって1万3000ドルで売っていた車種を5万ドルで売れるようになったし、今や海外で1800万台を生産するまでになっている。

 しかし、中国企業に日本と同じことはできないだろう。もし“中国版プラザ合意”が起きて1ドル=2元(その半分の4元でも)になったら、中国企業の経営者は誰もモノを作る気がなくなり、日本企業のように地道な努力はしないで全員が不動産投機に走ると思う。つまり、製造業が崩壊し、その一方でかつての日本のように国内で不動産バブルが膨らむわけだ。

 プラザ合意後の日本では不動産が暴騰し、東京都の山手線内側の土地価格でアメリカ全土が買えるという試算も出たほどだった。日本企業は強くなった円でニューヨーク、ロサンゼルス、ハワイなど世界中で不動産を買いまくった。それと同じことが中国発で起きるのだ。

◆世界的なコスト・プッシュ・インフレ

 しかし、周知の通り、日本のバブルは4年余りであえなくはじけて地価が暴落し、銀行が次々とつぶれて日本経済は「失われた20年」に突入した。中国も同じ轍を踏み、(日本は何とか持ちこたえた)製造業が崩壊しているとなれば、かつての日本以上の惨憺たる状況になるだろう。すなわち中国経済の「インプロージョン」だ。

 また、中国の製造業が崩壊したら、世界が困る。なぜなら「世界の工場」と呼ばれている中国に代わる製造基地はどこにもないからだ。

 たとえば、広東省だけでも人口は1億人以上で、ベトナムの約9300万人よりも多い。ベトナムやタイの人口では中国全体の製造を代替することは到底できないし、人口約1億6000万人のバングラデシュは輸出する港湾などのインフラが整っていないので、ジャスト・イン・タイムで製造しなければならない商品には対応できない。ミャンマーもインフラが整っていない上、まだ政府の役人に賄賂を渡さないと輸出枠をもらえないというような状況だ。

 したがって、中国の製造業が崩壊した場合、中国製品を輸入している国々で物価が高騰し、世界的な「コスト・プッシュ・インフレ」が起きるだろう。とくにアメリカは様々な物を中国から輸入しているので、ウォルマートやコストコなどの棚は空っぽになると思う。

 トランプ大統領はアメリカ国内に産業を戻して2500万人の新規雇用を創出するという公約を掲げているが、それは無理だ。アメリカの失業率は5%を下回って完全雇用に近く、人口動態から見ても、メキシコなどから移民を大量に入れない限り不可能なのだ。となると、アメリカは中国に代わる輸入先を見つけるしかないわけだが、前述したように、それもまた不可能だ。

 その結果、世界のお金の流れが止まってしまうだろう。そこから先はどうなるのか予想し難いが、世界恐慌を引き起こす可能性も否定できない。

 そうした事態を回避する最も簡単な方法は、中国がトランプ大統領の三つ目の要求に応え、何としても北朝鮮の核開発をやめさせることだ。そうすればトランプ大統領は満足して、一つ目と二つ目の要求を取り下げるのではないか。

 いずれにしても、日本は米中の動きを注視しながら、中国経済のインプロージョンという激震に備えなければならない。

 米中が喧嘩して中国元がフロート制になっても、北朝鮮制裁を徹底して米中が仲良くなって北朝鮮が暴発しても、世界には激震が走る。米中問題はドナルド・トランプと習近平という2人のマッドマンに任せておくわけにはいかないくらい、世界経済に甚大な影響を与えるのだ。

※SAPIO2017年7月号






コメントを残す