米中貿易戦争、全面対決なら中国が圧倒的に不利な理由 – ASCII.jp

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米中貿易戦争
Photo:PIXTA

 チキンゲームの様相の米中貿易戦争だが、全面対決になれば中国が圧倒的に不利なことがみずほ総合研究所の試算で浮き彫りになった。超大国の覇権争いの面があり長期化は避けられないとはいえ、歩み寄りのカギは中国側の選択にかかっている。

米中貿易戦争のインパクト
中国の受ける“打撃”は米国の3~4倍

 下記の図表1は、米中間の貿易が20%減少した場合の各国GDPへの影響を示すみずほ総研の試算である。

 それによると、米中が輸入制限をした際にGDPが最も大きな影響を受けるのは中国だ。そのマイナスの影響幅は米国が受けるGDPへの影響の3倍から4倍近い。

 米中貿易戦争の構造はチキンゲームの様相を呈するが、より深刻な影響は中国に及ぶ。このため今後の対決シナリオを考えると、中国側が現実的な対応を先んじて行いやすい。

 こうした試算を中国、米国双方が水面下で行いながら、両国は「次の一手」を検討する状況にあると考えられる。

◆図表1:米中間の貿易が20%減少した場合の各国GDPへの影響

米中間の貿易が20%減少した場合の各国GDPへの影響(注)2014~16年の経済構造に基づく分析。各国の乗数効果を含む。米国と中国では、急減する輸入品について国内品での代替が間に合わない場合を想定。
(資料)世界銀行、IMF等よりみずほ総合研究所作成 拡大画像表示

米中間の「貿易ギャップ」
中国は同額の報復はできない構造に

 図表2は米中間の貿易の現状だ。

 これを見ると、中国から米国への輸出は米国から中国への輸出の4倍近い水準にある。図表1の試算で、米中間の貿易縮小によるGDPへのマイナスの影響が、中国は米国の3~4倍近いとした背景にあるのは、ここに示された米中間の貿易ギャップの存在だ。

◆図表2:米中間貿易

米中間貿易(注)グラフの輸出は12ヵ月移動平均の年率換算値。(資料)米国商務省、各種報道より、みずほ総合研究所作成
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 米国は6月に中国製品に500億ドルの制裁措置を公表し、その後、追加制裁の対象を2000億ドルへ拡大する方針を示している。

 それに対して、中国は7月6日に報復関税を発動している。ただし図表2で明らかなのは、米国の制裁に対し、中国は同じ金額で報復することが不可能なことだ。

 米国から中国への輸出は1300億ドルしかないので、中国はそもそも2000億ドルの報復に同額で対応することはできないのだ。

中国の残る選択肢は
輸入拡大と市場開放

 中国は今年7月の対抗措置で米国の主力輸出品である農水産物に焦点を当てた報復をしているが、米中間の貿易ギャップのことを考えれば、対応策は、むしろ、米国の製品をいかに輸入するかの観点が重要になる。

 つまり米国の対中輸出の水準をもっと上げ、中国側が米製品に高関税賦課などの措置をとれば米国経済に影響がより大きく出るような構造にして、米国がむちゃな制裁措置がとれないようにするのだ。

 中国国内でも、7月6日の対抗措置については見直しの議論が出ているとされる。

 過去、中国と同様に深刻な対米貿易不均衡を抱えて、通商摩擦を経験した日本がとった対応策は、米国への直接投資で現地生産を拡大し、輸出を減少させる輸出代替だった。

 中国にも日本と同様の対応をする選択肢もある。しかし、今日、米国政府が中国企業の米国でのM&Aを含めた投資を抑制する立場をとっている以上、中国にとって日本がとったような直接投資での輸出代替策は現実的でない。

 次の図表3は米中投資の推移だが、米国から中国への投資額は、中国から米国への投資額と2倍以上の乖離がある。

◆図表3:米中間投資

米中間投資(注)直接投資は取得原価ベース。 (資料)米国商務省、各種報道より、みずほ総合研究所作成
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 米中貿易戦争をエスカレートさせず、また今後の米中通商関係を展望すれば、いかに米国の対中投資環境を拡大させるかが重要になるだろう。

米中間でとり得る3つのシナリオ、
当面、中国は現実的な歩み寄りか

 世界経済は引き続き拡大基調にあるが、最大のリスクは、米国を中心とした保護主義に伴う先行きの不透明感の強まりだ。その中でも最も影響が大きいのは米中貿易戦争の行方ということははっきりしている。

 下記の図表4は、米中間の貿易関係の今後の展望を示したものだ。

 ◆図表4:米中間の貿易関係の今後の展望


(1)早期解決シナリオ
・中国が米国の要求を受け入れる

  中国経済への影響を懸念し米国製品の輸入を拡大米国の対中直接投資も受け入れを拡大
・米国は対中制裁を解除し、対立解消

(2)貿易摩擦激化シナリオ
・米国は輸入制限を拡大、投資制限も

  追加関税の対象を対中輸入全体に拡大、中国の対米直接投資の制限も発動
・中国は抵抗措置を発動し、こう着状態に
  米国製品600億ドルと制裁の追加対象に

(3)全面対決シナリオ
・中国は追加関税に加え、質的対抗措置

  米企業の対中投資・M&Aを制限、輸入検査の厳格化などの非関税障壁、米国製品の不買運動
  人民元安誘導、米国債売却などで対抗
・米国は制裁強化を実施、対立が長期化


(資料)米国商務省、各種報道よりみずほ総合研究所作成

 両国の選択次第では、摩擦が激化したり、全面対決に発展したりする可能性もある。

 ただし、中国側はより深刻な影響を受けるため、現実的な対応を模索しそうだ。

 また、トランプ政権も11月の中間選挙前に、中国側の譲歩を引き出して「利食い」のように通商面での成果を得ようとするインセンティブもあるだろう。

 筆者なりに展望すれば、上記の(1)早期解決シナリオのような、単純な早期解決にはなりにくいだろう。

 ただし、中国が、水面下で、輸入拡大や対中投資受け入れなど、米国に対して歩み寄りを示唆するメッセージを送る可能性があるのではないか。米中間選挙をにらみながらの米中の動きに注目したい。

米中の通商摩擦は
2020年代まで続く構造

 ただし、長期的に見れば、3つのシナリオの中では、対決シナリオの構造が基本的には続くと考えられる。

 中国国内では習近平主席が、2期目の任期である2022年を超えて、2020年代後半まで影響力を持つと見込まれる。また同主席が掲げる「中国製造2025」は、ハイテク分野までの覇権を中国が確保しようという戦略的なものだ。

 それだけに、お互いが強力な軍事力や経済力を持っていたアテネとスパルタが長く覇権争いを続けた「トゥキディデスの罠」のように、米中の貿易戦争は、超大国の頂上決戦、覇権争いの様相になり、長期化しそうだ。

(みずほ総合研究所 専務執行役員調査本部長/チーフエコノミスト 高田 創)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら


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