自由貿易のメリットとは – 公明新聞

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自由貿易協定(FTA=用語解説参照)や経済連携協定(EPA=同)の締結など、モノやサービスが自由に往来できるようにする自由貿易体制。世界経済で保護主義の台頭への懸念が強まる中、日本は先月21日、欧州連合(EU)とEPAの早期締結をめざす方針を一致させるなど、自由貿易体制の強化に取り組んでいる。あらためて自由貿易を推進するメリットについて、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科の浦田秀次郎教授に聞いた。

経済効果

「競争」が生産性向上促す 労働力、資本を効率的に分配

生産年齢人口の推移と将来設計――日本にとって自由貿易を推進する意義は。

日本のような天然資源やエネルギーに乏しい国は、貿易によって外貨を手に入れ、その外貨を使って海外から国内の経済活動に必要な資源を補充しなければならない。その上で自由貿易には、エネルギーだけに限らず労働力や資本なども含めた有限資源を最も効率的に分配する市場メカニズムが働くという大きなメリットがあり、日本の経済成長には不可欠となっている。

また、人口減少や少子高齢化の進展に伴う市場の縮小が見込まれる日本の状況を踏まえれば、自由貿易によって海外の市場を取り込んでいく観点は重要だ。

――働き手の主力である生産年齢人口(15~64歳)の減少も深刻です。

まず前提として、経済成長を実現するには(1)労働投入を増やす(2)資本投入を増やす(3)生産性向上を図る――の3点しかない。

ただ、日本では2010年ごろから人口が減り続け、このままでは50年を待たずして人口1億人を割るとの推計が出ている。生産年齢人口も1990年代をピークに急激な減少傾向にあり、さらなる労働投入による経済成長の実現は困難だ。資本投入に関しても国内の貯蓄率は低く、海外からの直接投資も伸び悩んでいる。

こうした状況の下で、限られた労働力や資本を最大限有効的に生かすことが求められている。自由貿易による競争を活発化させ、産業の生産性向上を促すインセンティブ(誘因)を生んでいく必要がある。

――海外からの競争圧力による弊害も考えられますが。

一部では競争によって事業縮小や倒産を余儀なくされる企業も出てくることが予想される。しかし、こうしたデメリットを最小にすることこそ政治が果たすべき役割だ。

歴史を振り返っても、繊維から始まった日本の主要産業が、より高度な鉄鋼、自動車へと移ったことで大きな経済発展を成し遂げてきた。

長期的な視点に立てば、産業全体の競争力強化を図るとともに、より生産的な産業の育成を進めていくことは、日本経済にとっても、労働者にとっても好ましいと考えている。

今後の課題

共通ルールを幅広く 電子取引、労働、環境など含むハイレベルな協定を

――FTAやEPAの交渉では、サービス貿易などの自由化に向けた合意形成にも取り組んでいます。

モノの貿易に関しては、関税などの貿易障壁を削減あるいは撤廃し、自由な貿易環境を構築することが好ましいという基本的な考え方が定着している。一方でサービス貿易は、より複雑な制度が必要となるため、自由貿易の定義が確立しきれていない。

例えば、金融サービスの場合、海外の銀行が日本で事業展開するには、支店の設立や人が移動することにより、初めて預貯金などのサービスを提供することができる。グローバル化に伴う新たな経済活動が拡大している中、こうした活動に対する規制や保証などに関する貿易国との共通ルールを幅広く形成していくことが今後の大きな課題だ。

――一方、保護主義への懸念が強まっています。

米国のトランプ大統領が掲げる「米国第一」には、自国産業の復活には保護主義が必要との考えが前面に出ている。しかし、発展初期にある幼稚産業を育てるための保護政策に効果はあるとしても、既に出来上がっている産業が再興や再建を果たした例はない。そればかりか、関税引き上げなどの保護政策は貿易縮小の要因となり、かえって生産の減少による経済の低迷を招く恐れがある。

――世界経済が不透明さを増す中で日本の取るべき通商政策は。

日本がさらに経済成長していくためには、多くの国とハイレベルな自由貿易を行うべきだ。米国が離脱を表明している環太平洋連携協定(TPP)に関しても、米国抜きの11カ国で発効する道もある。TPPは電子商取引や労働、環境など時代に即した課題に対する規定がされており、今までにないハイレベルで包括的な協定だ。将来、米国だけでなく関心を持つ他の国が参加を表明することも大いにあり得る。

また、交渉中の日EU・EPAや東アジア地域包括的経済連携(RCEP)など、複数国との自由貿易体制の構築も重要だ。各国の主張もあるが、早く合意形成できるよう日本に強いリーダーシップを発揮してもらいたい。

協定締結国との貿易割合 現行23%を70%へ

国別のFTA・EPAカバー率の比較世界の貿易ルールづくりは世界貿易機関(WTO)が担ってきた。しかし、加盟164カ国・地域の全会一致を意思決定の原則とするため、貿易自由化に関する多国間交渉は進展せず、日本でも「2国間」での交渉が活発化。「日本再興戦略2016」の中で、2018年までに貿易額全体に占めるFTAやEPAなどの締結国の割合(カバー率)を70%まで引き上げる目標を掲げた。

カバー率は各国・地域の自由貿易網を把握する一つの指標となるもので、日本は02年に初めてシンガポールとのEPAを発効。以来、これまでにメキシコやスイス、東南アジア諸国連合(ASEAN)などと計15件の協定を発効させている。しかし、各国が協定締結を進める中、日本は15年のカバー率が22.7%にとどまっている。

友好関係の強化も

協定の署名まで済ませたTPPの発効が見通せないことも踏まえ、交渉中の日EU・EPAをはじめ、日中韓FTAや経済成長の著しいインドなど東アジア各国が参加するRCEP(アールセップ=用語解説参照)など、日本にとって重要な貿易相手国との協定締結が急がれる。自由貿易体制の構築は、経済的なメリットだけでなく多くの国や地域と友好関係の強化も図られると期待されている。

用語解説

◆FTA:特定の国や地域の間で、物品の関税やサービス貿易の障壁などを削減・撤廃することを目的とする協定

◆EPA:貿易の自由化に加え、投資や人の移動、知的財産の保護や競争政策に関するルールづくりなど、幅広い経済関係の強化を目的とする協定

◆RCEP:東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10カ国と、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの計16カ国による自由貿易構想

うらた・しゅうじろう


1950年生まれ。慶応義塾大学経済学部を卒業後、スタンフォード大学で経済学博士号取得。ブルッキングズ研究所研究員、世界銀行エコノミスト、早稲田大学社会科学部教授を経て、2005年4月より現職。専門は国際経済、経済発展。





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