コラム:ドル人民元通貨圏の防衛に動く米FRB=高島修氏 – Reuters Japan

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[東京 15日] – 14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)発表は予想外にタカ派的だったので驚いた。特にバランスシート圧縮に関して明確なガイドラインを発表し、年内開始を示唆。しかも、資産削減は当初100億ドルでスタートした後、3カ月ごとに100億ドル増額し、1年後に500億ドルまで増額することを明記した。

その反面、FOMC参加者のフェデラルファンド(FF)金利見通し(ドットチャート)は年内にさらにもう1回の利上げが行われ、来年以降も年3回程度の引き締めが継続するとのシナリオを示している。

だが、消費者物価指数の下振れなど、米経済統計が振るわない中、市場は米連邦準備理事会(FRB)の引き締め見通しに懐疑的なようで、昨日は金利政策を織り込む傾向にある2年金利が1.3%台で横ばいとなる中、10年金利は2.1%台前半へ明確に低下した。

資産削減幅を引き上げるプロセスにおいては追加利上げは難しいと、市場は解釈した格好だ。特に長期金利の低下は奇妙に思えるかもしれないが、この反応はある意味では正しい。

FRBを含めた国際通貨当局者やアカデミズム、多くの市場参加者の一般的な理解は、短期金利の引き上げは通貨高(この場合、ドル高)を招きやすく、財政やインフレのリスクプレミアムを織り込む長期金利の通貨への影響は短期金利に比べれば明確ではないというものだ。

その結果、今回のようにFRBが利上げプロセスを中断し、バランスシート正常化に軸足を移す場合、為替市場ではドル高圧力が後退。それに伴ってユーロ高、円高が進行する場合、欧州中銀(ECB)と日銀の金融緩和が長期化しやすくなる。

そして、異例の低金利環境が続く欧州と日本から投資資金がより長期的にわたって米国債券市場に流入しやすくなり、皮肉なことに再投資を減額するFRBに代わって、米債市場の利回り上昇を抑制することになると考えられるからだ。

その意味では、FRBが今、利上げよりもバランスシート正常化を優先させる方針に切り替えたのは、非常に合理的な判断のように思える。

<ユーロドルよりドル円への影響大>

ただし、少なくともドル円に関してはこのストーリーにはいくつかの落し穴がある。ここでは詳細は論じないが、まず当社のドル円のファンダメンタルズモデルに基づくと、FRBによる月500億ドルの資産圧縮は年5円ほどのドル高円安効果を発揮する計算になる。

一方で日銀の資産買い入れは現在、年60兆円ペースへとスローダウンしているが、それでも年3.75円ほどのドル高円安効果を生んでいるとの試算になり、目下、通常は1年程度のタイムラグをおいてドル円のトレンドに影響を及ぼす本邦国際収支の過去の改善から生じている円高圧力を相殺する格好となっている。

こうして日銀による年60兆円の資産買い入れが続く中、来年にFRBの資産圧縮が月500億ドルに達した場合、年8円近いドル高円安効果が生じることになるのだ。

もちろん、筆者もモデル分析から得られるこの数字をうのみにしているわけではない。だが、今年の終盤からは過去の国際収支改善から生じていた円高圧力が後退し、最近の国際収支の緩やかな悪化が円安要因としてドル円相場に反映されやすくなる時期を迎える。FRBのバランスシート正常化の開始時期がちょうどそのタイミングと重なり、思わぬ円安進行となる可能性もある。

なお、前述したモデル分析に基づけば、FRBのバランスシート圧縮がユーロドルに及ぼす直接的な影響はドル円に比べればはるかに小さく、月500億ドルの資産圧縮は年0.015ドルほどのドル高ユーロ安効果を生むにすぎないと考えられる。

しかも、ECBは来年前半のどこかで資産買い入れの減額(ECB版テーパリング)を始めることが予想されている。現在のECBによる月600億ユーロの資産買い入れは年0.028ドル程度のユーロ安ドル高効果を生んでいるとの試算結果が得られている。

来年、FRBが月500億ドルの資産圧縮を行うことになっても、ECBがテーパリングを進めれば、ユーロドルが米欧中銀の量的緩和策から受けているユーロ安ドル高圧力は現在よりも弱くなる。これが日銀の資産買い入れによる円安効果が持続することが見込まれるドル円との違いである。

<ドル108円割れなら押し目買いの好機か>

ところで、もう1つ見逃せない点が、FRBが利上げをスキップすることが中国の経済政策や原油など資源需給に与える影響と、それがリスク選好の変化、ひいてはドル円に及ぼす効果である。

ここで重要なポイントは、最近の中国の通貨政策(人民元防衛策)の変化だ。約1年前までは米利上げに伴って、市場でドル高が進行するに連れて元安観測が浮上し、中国から海外へ資本流出が加速する際、中国当局はドル売り元買い介入で対応しようとしていた。

だが、その結果、外貨準備が減少したことを嫌うようになり、昨年12月のFRBの追加利上げの前後で中国からの資本流出が再加速し、ドル高元安が進行した際、中国は為替介入を抑制しつつ、金融引き締めを用いて元安や資本流出を止める手法に通貨戦略を変更した。

今までのところ、この人民元防衛策(外貨準備防衛策)は比較的うまくいっており、最近、人民元は底堅く推移し、資本流出も沈静化。外貨準備の減少にも歯止めがかかってきた。

だが、この中国の金融引き締めで、中国・国内外の景気に減速懸念が警戒されるようになり、過去1年余り、力強い信用拡張を背景に伸びを高めていた原油など資源輸入(特に数量ベース)に陰りがみえるようになってきた。今年に入って、原油や銅、鉄鋼石など資源相場が上昇モメンタムを欠くようになったのは、こうした中国の通貨政策や金融政策の変化も一因だと考えられる。

原油・資源安が進めば、日本の国際収支を改善させ、長期的に円高方向に作用するし、短期的にも原油安は市場のリスク回避ムードを助長し、円高方向に作用することが多い。したがって、仮にFRBが利上げを強行し、それが全体的にはドル高方向に影響しても、その結果、中国が米国に追随して金融引き締めを強め、原油・資源需給が緩んでしまうと、対円ではドル安方向に影響することもあり得る。

また、FRBにとっても、原油・資源安によるインフレ圧力の後退がインフレ目標の達成の阻害要因となり、金融正常化プロセスが遅れるため、望ましいことではない。

逆に、今回のように、FRBがバランスシート削減を優先し、利上げによる金融引き締めを見送る場合、中国の追随引き締めの可能性は後退し、中国や世界経済の成長にはポジティブであり、原油・資源需給にもプラスに作用する。結果として、最終的には日本の国際収支や世界的なリスク選好の変化を通じてドル高円安要因となり得る。この場合、円は豪ドルや加ドルなどの資源国通貨に対してはより顕著に下落していくことが予想される。

もちろん、市場がその円安効果を認識するには一定のタイムラグがあるだろう。目先は全体的なドル安基調が続く(資源国通貨高が先行する)中、ドル円は直近安値108円台割れを試す方向とみるが、FRBのバランスシート削減がより具体性を増す9月FOMCを展望してはドル高円安圧力が次第に頭をもたげ始めるのではないか。

108円前後へのドル安円高の進行は国内外の投資家に絶好のドル円押し目買いの機会を提供すると考える。

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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