大企業からダダ漏れする“下積みレス”願望世代——20代でキャリアの地盤つくりたい – BUSINESS INSIDER JAPAN

Home » 06労働 » 大企業からダダ漏れする“下積みレス”願望世代——20代でキャリアの地盤つくりたい – BUSINESS INSIDER JAPAN
06労働, 有効求人倍率 コメントはまだありません



「石の上にも3年」という発想は、今の若手社員にとって、過去のものになりつつあるのかもしれない。

直近の有効求人倍率が44年ぶりの高水準を記録するなど、高度成長期以来ともいえる売り手市場だ。「成長できない」「同じ仕事の繰り返し」と感じた若手は、躊躇なく退社という道を選び、転職市場へ飛び出す。だが、取材を進めると、その理由は実は切実だ。

若手が下積みを嫌う“下積みレス社会”と、上司世代はどう向き合えばいいのか。

役員になってから子どもを産みたい

交差点

キャリアの“下積み”を嫌い、いち早く管理職を目指す若手社員が増えている。一方で、彼らをマネジメントする上司には戸惑いも…。

撮影:今村拓馬

「早くマネージャーになりたいと考え、売り上げへの貢献度を数字で示して、自分で会社に交渉しました」

都内の新進気鋭のベンチャー企業で働く松本美波さん(仮名)は、入社1年未満の24歳にしてすでにマネージャー職に昇格。自分より年上の部下が複数いる。

美波さんの目標は「最年少役員になること」。その理由は明白だ。

役員になってから、子どもを産みたいと考えています。その方が働き方の融通も効くし、短時間労働でも給与は下がりません

平社員のまま出産し育休をとって時短勤務で復職すれば、手取りの給与は産前の半分程度という例も珍しくない。時短勤務が続けば、昇進もままならない。それは「かえって不自由」と感じる。

女性が出産や育児をしながら働き続けることは、ハードルが高い。だからこそ「険しい道を突破したい。この先、いつ辞めたくなるかわからないので、市場価値を高めておきたいのです

仕事は好きだ。フラットで完全に実力主義の、ベンチャーの社風が水に合う。

「言われてやる仕事はゼロ。ずっとすごく面白い。寝る間も惜しんで働いてしまいます」

そんな美波さんは、新卒で入社した前職の小売業を9カ月で辞めている。

扱う商品が好きで、望んで入った業界。店舗での接客業も得意だった。仕事ぶりが評価され、昇進の打診も受けていたが、未練はなかった。

オフィス街を歩く女性と男性。

下積み時代を耐えられないと考える理由は、出産育児も含めたキャリアプランだ。

撮影:今村拓馬

というのも、上司のプレッシャーや権限が強く、常にパワハラ気味。部下はとにかく従わざるを得ない。

子どもを育てながら柔軟に働くことを考えると、そうした日々を耐えて「下積み時代」を過ごす気にはなれなかった。

日系大手は選択肢になし

ゲーム系のITベンチャー企業で働く石橋レナさん(仮名、23)は、大学は文系学部出身で、ITには特段興味があったわけではない。それでも今の会社を選んだ理由は「IT企業ならば成長が早い」と考えたからだ。

「仕事だけじゃなく、結婚も出産もしたい。それを考えると、30歳くらいまでには、ある程度の地位や実績を残してキャリアの地盤作りをしておきたい。そうすれば、育児を経ても復帰できると思います」

内定後の2017年夏から内定者アルバイトを始めた。2018年4月の入社からまだ半年たっていないが、すでに1人でプロダクトを担当している。

仮に日系の大手企業に入れば、地方への配属もあり得る。そうなると「本社に上がるまでに時間もかかるし昇進も順番待ちになる」(レナさん)。就活段階から、日系の大手企業への就職は選択肢になかった。

適材適所人事で離職率10%以下に

少子高齢社会による構造的な人手不足と好景気で、現在は新卒も第二新卒(大学卒業後数年内の求職者)も引く手あまただ。

こうした「下積みレス」思考の若い社員を何とかつなぎ止めようと、企業サイドも動き出している。入社後早い時期から大きな裁量権を持たせたり、一律の給与体系を見直す会社も出てきた。

みずほフィナンシャルグループ:2019年4月入社から新卒採用人数を約半減させ、従来の銀行員とは違うタイプの人材を探す。これまで新人育成として5〜10年かけて支店を2〜3カ所経験させてきたが、今後は優秀な人材は早い時期から専門的な業務を任せる方針に。

サイバーエージェント:入社7年目の29歳の社員を執行役員に抜擢したり、「AbemaTV」でヒットを飛ばしている将棋・アニメチャンネルや恋愛リアリティショーのプロデューサーにも20〜30代前半の社員を据える。現在の離職率は10%以下に。

LINE:子会社であるLINEモバイル社長に入社1年の31歳の社員を起用。2019年度新卒採用ではエンジニアの一律年俸を廃止し、技術テストや面接の評価によって金額を決定。固定年俸も他部署より約100万円高い。

ソフトバンク:子会社のソフトバンク・テクノロジーでは、新卒社員でも実績があれば管理職層のひとつ手前のグレードに配置するなど“飛び級”ができる「グレードスキップ」制度を設けている。

メルカリ:新卒のエンジニア・プロデューサー・デザイナー職に対し、一律の初任給を廃止して個人のスキルに応じた年収を提示。内定期間中でもスキルを身につければ、提示された報酬が上がる可能性も。

“下積み”は学生時代に済ませている?

渋谷

学生時代にどんなことでも経験出来る時代。新卒で入社する前から、実は大きな差がついている。

shutterstock/TK Kurikawa

今、社会に広がる「下積みレス」願望を強く実感している人は少なくない。

新卒で大手電機メーカー・パナソニックに入社後、これまでにハードウェアなどのスタートアップ2社を立ち上げた、Shiftall社長の岩佐琢磨さん(39)もその1人だ。大企業を経て起業すると共に、35歳以下の若者たちを支援するアクセラレーションプログラムのメンターを務めるなど、多くの若者たちに接してきた。

その中で「価値観が多様化し、アグレッシブに働きたいか、そうでないかを人生の早い段階から決断する人が増えた」と感じている。そしてその背景としては「今の30代後半以上の管理職世代に比べ、彼らの方がはるかに『早熟』であることが多いから」と、見ている。

「大学生までインターネットに触れたこともなかった私たちに比べて、今の学生は情報を得たりビジネスに関わるチャンスが桁違いに増えています。『友人と一緒に会社を立ち上げてこういうプロジェクトをやっていました』というような、新卒なのに中途採用くらいの経験を積んでいる“ビジネスマッチョ”な学生も少なくない」(岩佐さん)

そうした時代環境の変化を無視して、「そんな人に何の経験もない他の新卒と同じことをやらせたら、それは辞めちゃいますよね」。むしろ、これまでの人事制度の限界を指摘する。

「これまで企業には“中肉中背”の人を想定した人事制度しかなかった。管理職が社歴では測れない彼らの“入社前下積み”をどう評価し、それに合わせた働き方をどう提示していくかが、今後の課題だと思います」

年功序列の崩壊でやるべきこと

岩佐琢磨

岩佐琢磨さん。ハードウェアスタートアップ「Cerevo」(セレボ)の創業者としても有名。

本人提供

とはいえ、下積みレス志向への組織や社会のシフトは、年功序列型が定着している日本では一筋縄とは行かなさそうだ。

まず、若手が早い成長を追い求めると言っても、その方向性も一つではない。管理職を望む人もいれば、「一生コードを書いていたい」というエンジニアのような専門性を追求する人も。

さらに早い成長を追い求める若手管理職も、これから増えるだろう。自分より年下の社員にマネジメントされることになった人の中には、抵抗を感じる人も少なくないだろう。

「年功序列が崩れていく下積みレス社会では、社員をうまくマッチングさせてあげることが非常に重要です。 仕事には意欲的だけどまだコミュニケーション能力には不安がある若手マネージャーには、エンジニアリング能力はそこまで高くないけどコミュニケーションは100点という人をペアにしてあげたり」(岩佐さん)

下積みを敬遠する成長意欲の強い若者たちに、会社はどう向き合うべきか。

(文・竹下育子、滝川麻衣子)


少子高齢化による構造的な人手不足と景気の回復で、転職市場が活況になっています。有効求人倍率は高止まりし、現在はバブル期以降の最高水準に。完全な売り手市場ですが、本当に転職しやすくなっているのでしょうか?実際に転職しようとすると……。

Buiness Insider Japan編集部とYahoo!ニュースの共同企画による連載「転職バブルの正体」。8月6日から計5本を公開します。





コメントを残す