政府が春闘で目指す「3%の賃上げ」は合理的か? – BIGLOBEニュース

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政府が春闘で産業界に要請する「3%の賃上げ」。この動きの背景を読み解くことを入り口に、「労働者の生産性」に着目して、本来あるべき賃上げの理想形を考える。

安倍政権は、春闘における賃上げ率が3%になるように、経団連などに働きかけている。これは、インフレ率2%を達成してデフレ脱却を確実なものにするためには、3%程度の賃金上昇率が必要であるとの考え方に基づく。賃金上昇は消費喚起に必要であり、消費活動の活発化はGDPの押し上げにつながり、インフレ率上昇につながると考えられるからだ。

政治的にも、賃金上昇率がインフレ率を上回らなければ、インフレ目標政策への支持が失われる、という配慮もある。「賃金・インフレ」のサイクルが「2%・1%」から上昇して、「3%・2%」になれば、デフレ脱却宣言ができる。
 
本来、労働者が要求すべき賃上げを、なぜ政府が推進するのか、政府による民業介入ではないか、という批判もあるかもしれないが、次のように考えると経済的論理が成り立つ。

ある企業(企業A)が賃上げをすべきかどうか検討しているとしよう。賃上げするとコストが高くなり、これを製品価格に転嫁できれば問題ないのだが、製品価格に転嫁すると、競合他社にマーケットシェアを奪われてしまうと考えて、賃上げを躊躇する。

一方、競合他社(企業B)も同じように考えて、賃上げを躊躇する。両社とも、他社も製品価格への転嫁をするなら、競争条件は変わらず、賃上げをしようと考えているような、両すくみ状態があるとしよう。

ここで政府が、皆さん賃上げをしましょうと言ってくれれば、安心して両社ともに賃上げをして、労働者も企業も幸せな状態になる、と考えられる。これは、政府が「協調の失敗」を解決するという触媒の役割を果たしていることになる。

現在、多くの企業が、史上最高益をたたき出すほど業績がよい。企業は成果の分け前を労働者に配分すべきではないか、と考えても不思議ではない。決して企業に無理強いをしているわけではない。

では、そもそも春闘の賃上げ率の決定要因は何か。図1を使って説明を試みよう。


1980年度以降、2017年度までの春闘賃上げ率(赤色実線)であらわされている。春闘による交渉では、インフレ率(前年)、売上高経常利益率(前年)が交渉の基になると考えられる。インフレ率が上がれば、それに連動して賃上げが容認されると考えられる。

たしかに、80年度から02年度まで、インフレ率(青色破線)が上下の変動を伴いながら、低下している過程で、春闘の賃上げ率も同じ波形を伴いながら下落している。これはきれいな相関だ。

ところが、02年度以降インフレ率の上下、特に09年度の大きなマイナス(つまりデフレ)には賃上げ率は反応していない。02年度以降は、インフレ率との相関はなくなり、ほとんどフラットである。これを見る限り、18年度(今回)の賃上げも前年と同様2%をすこし上回る程度となると予想される。

なお、インフレ率は、消費税の導入、消費税率の変更の年度には消費税率引上げ分に近い上昇が見られるが、それには賃上げは反応しない。

企業の利益率は賃上げに影響するだろうか。

企業売上高経常利益率(緑色破線)は、バブルの頃(80年代後半)も4%台にのせることはなかった。長期低迷の時期には、2%を切っていたが、02年頃から、上昇を始め、09年度・10年度には、一時低迷するものの、アベノミクスのもとで、上昇トレンドに乗り、16年度には5%を上回っている。企業の利益率はバブル時代をはるかに上回る。ところが、企業の利益率の変動と賃金引上げ率にはほとんど相関はない。

しかし、ここまで企業の利益率が上がってきたのだから、3%の賃上げをして労働者に一部還元するのは当然だ、という立場もある。一方、企業の利益が上がってきても、それが労働者の生産性の向上によるものでなければ、労働者に還元する必要はない、という冷静な判断もあるだろう。労働者の賃上げはあくまでも生産性向上に連動すべきだ、という立場で、これは経済合理性にもかなっている。

では、労働者の生産性は上がっていないのか。労働者の生産性をみるのには、いろいろな指標が考えられるが、ここでは労働者一人当たりのGDP成長率を労働生産性の代理変数として使ってみよう。

図2は、(実質)GDPを労働力人口で割った、労働者一人当たりGDP増加率(黒色実線)と、これと相関をもつと予想される変数として、所定内給与額変化率(緑色破線)と、現金給与総額変化率(赤色丸マーカー付き)を描いている。


たしかに生産性と給与とのあいだには相関関係が見られる。もちろん図1でみた賃上げ率と、給与総額(特に、所定外・ボーナスを含む現金給与総額)とは同一に論じることはできないものの、重要なのは生産性の向上だ、ということはわかる。ところが肝心の労働者一人当たりGDP増加率はこのところ低迷している。

安倍政権は、今年は、「働き方改革」「生産性改革」を重要政策として掲げているが、これは実質賃金、実質給与を改善するためには、必須の改革である。生産性の向上が労働への利益の分配を高めるからだ。一方、日本では、不況でも「雇用は守る」、好況でも引き抜き合戦はおこらないことから生産性と賃金がなかなか高められない、という問題もある。

企業業績がよいのであれば、「最低賃金」をどんどん上げて、生産性が低い企業には退出を願い、労働者をより生産性の高い職種に移動させるということが有効かもしれない。たしかに、東京都の最低賃金はここ5年間で、850円から958円へと上昇している。この動きをさらに加速させることが重要だ。

もう一つ生産性を向上させるために重要なのが、残業をなるべく減らして労働時間を減らす一方で、成果(生産物)を変えないように効率的に働いてもらうことである。

残業時間数を減らすためには、超過勤務手当てを2割5分増し(ただし60時間を越えると5割増)から、欧米なみの5割増しにすべきだろう。そうすれば、超過勤務半減でも労働者の手取りは変わらない。もちろん労働者が短い時間でも成果は同じになるような労使双方の努力やAI活用などの工夫が必要だ。





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