「金髪オッケー!」KDDIエボルバがミュージシャン社員を集める理由 – BUSINESS INSIDER JAPAN

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KDDIエボルバの中澤雅己社長(中央)は、本気で社員の音楽活動を支援している。

夢を追いかけながら働きたい。「ライスワーク」で生計を立てつつ好きなことで食べていく道を追求したい—— 。

そんな社員を社長自らプロジェクトを立ち上げ、全面的に応援する会社がある。コールセンターや派遣事業を全国展開し、約2万3千人の社員を抱える、KDDIエボルバだ。KDDIグループ企業と連携し、全世界への音楽配信、カラオケチェーンの登録料を負担するなど、音楽活動と仕事を両立させている社員のサポートを打ち出している。自ら発案し指揮をとるトップの思いと、背景にある切実な理由を聞いた。

社長自ら「社員の才能を開花させる」直談判

「社員の才能を開花させるお手伝いを、会社としてしようじゃないか」

KDDIエボルバの中澤雅己社長がそう言い出したのは、昨春のことだった。全国36カ所にコールセンターを置くKDDIエボルバは、企業の「お客様センター」業務のアウトソーシングを請け負っている。

接客は電話越しで、顧客に顔を見せることはない。勤務はシフト制度で、時間の融通もきく。こうした業務形態もあって、そこで働く社員、中でも8割近くを締める契約社員たちは「紆余曲折あったかもしれないが、色々な経験をし、実にさまざまな才能を持った人がいる」 (中澤社長)。

高学歴でも正社員の道を選ばなかったり、イラストレーターやミュージシャン、俳優として活動していたり、意外な特技をもっていたり。好きなことを追求した「夢」だけで食べていくことは難しい。そこで生計を立てるための「ライスワーク」として、KDDIエボルバを選んでいる社員が相当数、いるのだ。

社員アンケートから、実に1割弱が「アーティスト」志望であることに、中澤社長は注目した。2万人超えの会社で少なくとも数百人の「アーティストのタマゴ」がいる。

「うちで働くことで才能を開花させ、やがては実を結んでもらいたい」

まずは、アーティスト志望者の4割を占めるミュージシャンの支援をやってみよう。中澤社長は、同じKDDIグループ会社でアジア最大の音楽聞き放題サービスを手がけるKKBOXに、営業や企画担当の部下を引き連れ、直談判に行った。

メディアへの売り込みやPRまで支援

インタビューに答える、KDDIエボルバの中澤雅己社長

KDDIエボルバの中澤雅己社長は自ら、アーティスト支援を発案した。

KDDIエボルバ社員がインディーズで出しているCD作品を持ち込むと「レベルも高い。これは面白い」となり、ミュージシャン社員たちの支援を約束すると共に、楽曲を世界配信するサービスで連携してもらうことに。こうして「エボルバで、あなたの夢かなえませんか」プロジェクト第1弾の「ハタラク」×「オンガク」企画が動き出した。

昨年6月にスタートした「ハタラク」×「オンガク」企画は、デジタル音楽流通サービス「TuneCoreJapan」と連動。KDDIエボルバ社員が、TuneCoreJapanに楽曲を登録すれば、アップルのiTunes StoreやKKBOXなど提携先のすべてのデジタル音楽ストアに一括配信される。これとは別に、一部のカラオケBOXチェーンにも自分の楽曲を登録できる。費用や作業をKDDIエボルバが負担する。

楽曲の売り上げから配信ストアの手数料を引いたすべての金額が、KDDIエボルバ社員であるアーティストに還元される。KDDIエボルバには売り上げは発生せず、著作権も本人のもの。同社はさらに、メディアへの売り込みやPRまで支援する。これまで約1年で、32のKDDIエボルバ社員ミュージシャンが、プロジェクトの支援を受けた。

甘くないとはわかっていても

東京・下北沢や渋谷のライブハウスを中心にインディーズで活動する、ロックバンドHISTGRAMのボーカル&ギター、吉野彰斗さん(32)とベースの大久保慎太郎さん(28)も、KDDIエボルバで働くミュージシャンだ。吉野さんと大久保さんは大学時代にバンドを結成し、その後もバイトをしながら音楽を続けてきた。 3年程前からは、シフトの自由の利くKDDIエボルバで、最初は派遣社員、今では契約社員として働いている。

多い時で月に8本はライブがある。職場である横浜センターは音楽仲間も多く、両立はしやすい。会社が「ハタラク」×「オンガク」企画を始めたのを知って「軽い気持ちで」申し込んだ。これまでに、カラオケBOXと音楽ストアへの配信の支援を受けた。

インタビューに答える、HISTGRAMメンバー

インディーズで活動するHISTGRAMの吉野さんと大久保さん。

職場ではチームリーダーの大久保さんは「ライブの時は、チームに『すまん』と言って自分でシフトを調整しています。周囲に助けてもらって音楽活動を続けられていますね」。6人チームで回すシフトのため、比較的融通はききやすい。コンビニのバイト時代は2人で夜勤を回すので、ライブで出演するため、「代わりの誰かを自分で見つけなくてはいけませんでした」と苦労を振り返る。

それに比べると、KDDIエボルバでの仕事環境は、はるかに快適だ。 ここでは、採用企画部が「エボルバで、あなたの夢かなえませんか」プロジェクトの事務局を担当。社内イベントで社員ミュージシャンの演奏を企画したり、社内ムービーのBGMに起用したりと、積極的な応援ムードが社内にある。「あの曲がいいよね」と、社員から感想も寄せられる。

こうした環境に感謝をしつつも、吉野さんは率直に語る。

10年近くバンドを続けてきて、音楽だけで生活していくのは正直、甘くないとわかっている。とはいえもちろん今も、メジャーで成功したい、音楽だけで生活したいと思っています

切実な採用難から潜在ワーカーに注目

日本は空前の人手不足時代を迎えようとしている。4月の有効求人倍率(季節調整値)は前月比0.03ポイント上昇の1.48倍で、バブル経済期のピークだった1990年7月(1.46倍)を上回った。1974年2月以来、43年2カ月ぶりの歴史的な高水準だ。完全失業率も「完全雇用」とみなされる3%を切り、2%台で推移している。しかも少子高齢化がさらに進むことによって、この先、人手不足がさらに加速することは明白だ。

コールセンターのような、人手が必要な労働集約型の職場はとくに、1年中、求人募集をかけている状態だ。多彩な社員を応援するという「ハタラク」×「オンガク」企画の重要な目的のひとつは、「ユニークな会社、好きなことと両立のできる環境を打ち出して、他社との差別化をはかること」(中澤社長)。 切実な採用難も「社員の夢を応援する」理由のひとつだ。

実際、社員の約1割は「友人紹介」による口コミで採用につながっているという実績がある。KDDIエボルバは他にも託児スペース付きのオフィスを従業員居住地の近くにつくる「ニア宅」事業、短時間勤務者を組み合わせたジョブシェアリング事業と、働きやすい環境を作り出し、あの手この手で人材確保に乗り出している。

「遠くに通勤のできない人、週3回なら働ける人など、フルタイムでは働けないが仕事を探している潜在ワーカーに、働く場を提供したい」と、中澤社長はいう。

「ライスワーク」に肉もつけたい

こうして必死の思いで人手を確保しているのに、「ハタラク」×「オンガク」企画は、ミュージシャンとしての活動が成功したら、会社を飛び立って行ってしまうことになる。実際に「事務所との関係で、名前は明かせませんが、メジャーデビューしているミュージシャンもいます」と、中澤社長は微笑む。

ここまでやった支援の結果、社員が飛び立って行くことについてはどう考えるのか。

「それでいいと思っています。ご縁があってうちに来てもらって、仲間として一緒に働く。才能を発揮できる場を我々が提供することで、羽ばたいてもらえばいい

ただ、音楽だけでずっとやっていくのは厳しい道だということを、中澤社長はこれまでも見てきた。

「国民的歌番組もない今の時代、生き残っていくのは本当に大変。だからこそ、年齢が上がって(アーティストとしての)仕事が減ったり沈む時があったりしたら、またKDDIエボルバに戻ってきてもらえばいい」。

実際、職場には元ミュージシャンで管理職、部長職といった社員も珍しくない。アジアツアーまでやった人気ミュージシャンもいる。今後はミュージシャンのみならず、俳優やタレントの支援にも乗り出すというエボルバ。いろんな経験を積み、違う世界を見てきた多彩な人たちの集まった会社だからこそ、できる仕事もある。契約社員からの昇格も昇給も道は開かれている。

「エボルバで、あなたの夢かなえませんか」

プロジェクトに参加するアーティスト志望の社員らにとって、今のKDDIエボルバでの仕事は、食べる手段の「ライスワーク」かもしれない。それでもひょっとしたら、いつかここで新たな生きる道が見つかるかもしれない。

「その時はライスだけでなく、肉も野菜もつけたい」と、中澤社長はいう。

ライスワークより、進化形だ。

音楽でも会社員でも、ハタラク人を温かく見守る眼差しが、KDDIエボルバの採用力であり企業力なのだ。

(撮影:篠塚ようこ)

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