ゾンビ企業がデフレ脱却の足かせに、ロードマップなきアベノミクス – ブルームバーグ

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経営コンサルタントの瀬野正博氏は、経営目標を立てる気力もない疲れ果てた中小企業経営者がこの5年で増えたと感じている。2009年の中小企業金融円滑化法施行後、企業は融資返済の猶予(リスケ)を受けることが容易になった。「経費の削減策を示せばリスケができる」ことが常態化しており、将来投資ができない状態に陥っているという。

  国内総生産(GDP)600兆円に向けた成長戦略を掲げる安倍晋三政権は今年1月、アベノミクスの成果として中小企業の倒産件数が内閣発足後3割減少したと発表した。国内企業の倒産数は7年連続で減少し、16年は8164件と16年ぶりの低水準となった。しかし、経営環境が良くなっているわけではなく、資本金1億円以下の中小企業の約67%は利益を計上できず法人税を納めていない。

  20年にわたり倒産企業の分析を行ってきた帝国データバンクの藤森徹情報部長は、「倒産が減ればゴールなのか」とアベノミクスの成果として掲げることに疑問を呈する。倒産数の減少が税収増や将来の経済成長にどの程度貢献するかの議論もデータもないのは、「ロードマップなきアベノミクス」だと指摘した。

  経済協力開発機構(OECD)は昨年4月のリポートで、手厚い公的支援が経営破綻している「ゾンビ企業」を倒産させず、企業再編を遅らせていると述べた上で、「そのような支援が資源配分にひずみを生じさせ、生き残るべき企業の金融アクセスを制限し、日本の潜在成長を減じている」と指摘した。

  円滑化法は、リーマンショックの影響緩和を目的に中小企業融資の返済猶予や条件変更に柔軟に応じる方針を定めた時限立法だった。しかし、金融庁は13年の期間終了後も「引き続き融資先への貸し付け条件変更や円滑な資金供給に努めること」を金融機関に求めており、実質的な延長となっている。

ゾンビ企業

  都内で板金塗装業を営む60代の経営者は、リスケが受けられる限り商売を続けたいと考えている。戦後、自動車の普及期に父親が創業し、最盛期は20人近くの職人を抱えていた。今は古びた作業場に工員が1人いるのみで、複数回リスケを受けた今も利益は全く出ていない。それでも差し迫って商売を畳む必要はなく、古くからのお客さんは来てくれると事業が続けられる環境を歓迎する。

  円滑化法のもと金融機関が融資条件の変更基準を緩和したため、企業は抜本的な経営改善計画を示さずともリスケを受けられる。同社長は「お金を借りて商売は続けているが、代替わりをする前に畳むつもりだ」と、利益創出にはこだわっていないと語った。

  帝国データバンクによると、リスケを受けた後に倒産した企業の数は、09年の112件から13年に563件に増加した。その後は16年まで400-500件の水準で増減を繰り返しており、藤森情報部長は、為替や資源高など経営環境が変わる中、どうにか持ちこたえている企業が多いものの、「倒産リスクをため込んでいる状態だ」との見方を示した。

デフレ脱却の足かせ

  国内企業の再編に詳しいSMBC日興証券新谷祐幸執行役員は、企業が倒産できずに商売を続けることがデフレ脱却の足かせになると指摘した。リスケを受けた経営者はコストを下げても売り上げ増へ努力を重ねる。人口減少で市場が縮小する中、適正規模数以上の企業が過当競争を繰り広げ、労働力の適正配分という意味でも弊害が生じる。「大手企業は海外に活路を求められるが、地方では副作用が顕著に表れる」として、地方の疲弊にもつながるとの見方を示した。

  第二次安倍内閣は、13年にまとめた日本再興戦略で中小企業の新陳代謝が必要として、当時約4.5%だった開業・廃業率を米・英国レベルの10%台に引き上げる目標を掲げていたが、14年度の開業率は4.9%、廃業率は3.7%にとどまった。16年改訂版では、達成には社会の意識改革が必要で長期的な目標となると追記。また、14年度に約86万社だった黒字企業を20年までに140万社に増やすとした。

  慶応大学大学院の岸博幸教授は、「掲げた理想は正しかった」が、現実は政治家が地元企業の倒産を嫌って国会で補助金や融資の対応を求めていると指摘。その結果、生産性の低い企業が増え、人手不足が深刻化するなど地方創生の観点からも反対の方向に向かっていると述べた。

  岸氏はまた、潜在成長率向上への改革は東京五輪までの3年が勝負だと言う。今はインフラ投資需要などで景気が良いが、19年10月には消費増税が予定されており、その後人口だけでなく世帯数も減少に転じる。五輪後の景気後退局面では改革は難しいとみている。処方箋としては、最低賃金の上昇を挙げ、賃金上昇のコスト増に耐えられない中小企業を廃業に誘導することで良質な雇用を生むべきだと述べた。

融資条件変更申し込み今も

  岡山市に本社を置く中国銀行で融資を担当する大友雅士郎氏は、「現場ではまだ多くの企業がリスケを必要とし、経営改善策を模索している状態」だと述べた。円滑化法施行当時と比べて数は減ったものの、今も取引先の10%程度からリスケ申し込みを受けている。

  同行は15年10月、地域企業の事業内容を分析し、成長可能性評価やソリューション提案を行う「リサーチ&コンサルティングセンター」を設立した。全160支店の担当者が、取引先に対して的確な経営改善を提示するための教育の役割も担う。

  「昔は先輩に学ぶことで経営力を図る目を養ってきた」が、円滑化法施行後に状況が変わった。「来た人はすべてリスケしますという状態に近く、緊急性のある企業を見極めながら対応することで精いっぱいだった」と振り返り、「ひとつひとつ誠意を持って対応したいが、数字に追いついていないのが現状だった」と大友氏は語った。

  金融庁が全国の地域銀行に対して行った最新の調査によると、円滑化法に基づく条件変更を受けた企業約15万社のうち53%が「経営支援等未実施」となっている。また初回のリスケから5年が経過している企業は43%に上っている。

副作用

  「副作用というものは、何をやっても起きる」--。09年に円滑化法を成立させた当時の金融担当相、亀井静香氏は今年2月、「何十万の中小企業が助かった」と同法の重要性を強調した。しかし、実質的な延長措置がとられ赤字企業がリスケを繰り返す現状については、「当時は、金を返せないのが当たり前になってはいけないという理由で時限立法にした」と述べ、こうした弊害の長期化は想定していなかったと述べた。

  同法が金融機関の安易な貸し出しにつながり、地方銀行などで審査能力が低下したと指摘されていることについても、「副作用として、そういう側面はある」と認め、金融機関が「本当の意味の企業診断」をして、アドバイスをしながら貸し付けをする必要があると語った。金融庁は昨年10月に発表した金融行政方針で、金融機関に担保・保証がなくても将来性や地域での必要性などを見極めた融資姿勢をとるよう促す考えを示した。



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