特集:貿易戦争時代の微妙な世界経済 – BLOGOS

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ここ2年くらい順調に拡大を続けてきた世界経済は、「失速」や「息切れ」とまでは行かないまでも、そろそろピークを過ぎつつあるようです。米国経済はあいかわらずの絶好調ですが、それも今後はブレーキがかかると見ておくべきでしょう。

こういう微妙なタイミングに、飛び込んできたのがトランプ政権による高関税政策です。既にEUや中国は報復措置に踏み出しており、もはや貿易戦争は避けられそうもありません。

どこまで拡大するのか、その経済効果をどう見ればいいのか。そして日本はどう対応すればいいのか。悩ましい現状を整理してみました。

●世界経済の「後輪」は着地が近い?

景気を表現するユニークな表現のひとつに、「飛行機の後輪」という言葉がある。「○○県経済は飛行機の後輪みたいなものだ。良くなるときは最後に浮上するし、悪くなるときは真っ先に地面に着く」などと使う1

一種の自虐表現であるが、「最初に悪くなるところ」を知っておけば、全体の景況感を判断する良い材料となるはずである。それというのも今週7月16日、IMFが新しいWEO(世界経済見通し)を発表した。そのタイトルに含蓄があって、”Less Even Expansion,Rising Trade Tensions”(まだら模様になった拡大、貿易摩擦の高まり)という。

これまで拡大基調(Expansion)であった世界経済が、とうとうまだら模様(Less Even)になり始めた。つまり悪いところが目立ち始めた。次ページに掲げた通り、全体の成長見通しは前回4月と同じ3.9%のままだが、ユーロ圏と日本、そしてインドとブラジルなどが下方修正されている。

どの国が「飛行機の後輪」であるかはさておいて、IMFが言わんとしているのは「世界経済の拡大基調は、そう長くは続かないですよ」であろう。これまでのWEOのタイトルを以下のように並べてみるだけでも、世界経済は2016年がボトムであって、その後は尐しずつ良くなってきたことが窺える。ただし拡大局面は次第に成熟化しており、おそらく今年1月頃が天井であった、と見るべきではないか。

○”World Economic Outlook”タイトルの変遷

2018.7 “Less Even Expansion, Rising Trade Tensions” (まだら模様の拡大、貿易摩擦の高まり)
2018.4 “Cyclical Upswing, Structural Change” (循環的上昇、構造的変革)
2018.1 “Brighter Prospects, Optimistic Markets, Challenges Ahead” (明るい見通し、楽観する市場、前途の困難)
2017.10 “Seeking Sustainable Growth: Short – Term Recovery, Long – Term Challenges” (持続的な成長を求めて: 短期回復、長期困難)
2017.7 “A Firming Recovery” (より確かになる回復)
2017.4 “Gaining Momentum?” (勢いがついてきた?)
2017.1 “A Shifting Global Economic Landscape” (移り変わる世界経済の展望 )
2016.10 “Subdued Demand: Symptoms and Remedies” (抑圧された需要:その症状と処方箋)
2016.7 “Uncertainty in the Aftermath of the U.K. Referendum” (英国民投票余波の不透明性)
2016.4 “Too Slow for Too Long” (かくも長くかくも緩やかに)
2016.1 “ Subdued Demands, Diminished Expectations ” (抑圧された需要:萎んだ期待)
2015.10 “ Adjusting Lower Commodity Prices ” (商品価格低下への調整)

●米国経済の絶好調はいつまで続くのか?

景気拡大局面は、普通であればインフレや金利上昇によって終わる。ところが世界経済は10年前のリーマンショックからこの方、非常に緩やかな景気拡大が続いてきた。

その中でも好調な米国経済は、失業率が4%前後まで低下しているというのに、賃金も物価も上がらないという「適温経済」が続いている。今年1-3月期の実質GDPは2.0%と低めに出たが、これは第1四半期が低めに出るという統計上の癖のせいもあって、来週公表予定の4-6月期は年率4%程度に加速するとの見通しがもっぱらだ。

つまり3%前後の成長がなおも続いているということになる。こうした中でFOMCは3月と6月に利上げを実施し、市場の利上げ見通しは「年3回説」から「年4回説」へと移行しつつある。

その一方で、利上げは既に7回目となっているので、現在のFF金利は1.75~2.0%である。米国経済の中立金利を3%弱と考えると、「利上げはあと3回くらい」(年内1回+来年2回?)という見方もできる。

ただし減税と支出拡大に支えられた今の好調さは、長期にわたって持続可能とは考えにくい。そして利上げがなくても、米連銀のバランスシート縮小は着実に進んでいる。

7月11日時点の資産は4兆2912億ドルと、昨年10月時点と比べると既に1785億ドルも減っている。これだけの金額が、既に市場から中央銀行に回収されたことになる。QE(量的緩和)ならぬQT(Quantitative Tightening=量的引き締め)は、今後も尐しずつテンポを上げて行くはずだ。

こうした中で必然的にドル高が進んでいる。いわば米国経済には、エンジンブレーキがかかっているようなもの。今の好調さは期間限定と見るべきだろう。

●貿易戦争によるマイナス効果をどう読むか?

かくして世界経済がまことに微妙な状態にあるときに、貿易戦争が始まってしまった。この効果をどう読むかは悩ましい。なにしろ「世界第1位と第2位の経済大国が、互いに追加関税を実施する」といった事態は過去に例がない。

今の米中の正面衝突に比べれば、かつての日米通商摩擦などは可愛いものであった。何しろ日本はWTOに提訴する程度で、対米報復関税など考えもしなかったのだから!マクロで見れば、「高関税政策による直接的な影響は小さい」というのが模範解答となる。

むしろ「貿易戦争により、企業活動に不透明性が高まる」という間接的な影響の方が大きくなる。もちろん後者を計量することは非常に難しい。そこへ絶好のシミュレーションが登場した。今週のIMFは、7月21-22日にブエノスアイレスで行われるG20 財務相・中央銀行総裁会議に向けた”G20SurveillanceNote”を公表した3

いわば議論のための参考資料だが、この中に「貿易戦争によるグローバルなインパクト」”The Global Impact of Escalating Trade Actions”という試算が掲載されている。このシミュレーションが検討したのは、以下の4通りのシナリオである。関税措置はすべて恒久的なものと想定している。

1.AdoptedTariffs(既に実行済みの関税)→鉄鋼(25%)+アルミ(10%)、対中追加関税500億ドル(25%)、中国からの報復関税500億ドル(25%)など

2.AdditionalTariffs(今後追加される関税)→対中輸入2000億ドル(10%)、中国による同規模の報復関税

3.CarTariffs(自動車輸入関税)→米国が全自動車輸入に25%+各国の報復措置

4.ConfidenceShock(信用危機)→貿易戦争がグローバルなショックを与え、投資に対するリスクプレミアムを引き上げてしまうというシナリオ

その結果は…と言えば、シナリオ1~3は驚くほど影響は小さかった。4の信用危機シナリオではさすがにGDP引下げ効果が大きくなり、世界中が大損害を受けることになる。文字通り「貿易戦争に勝者なし」である。

次ページに、米国と日本に関する結果を抜き出しておいた。シナリオ1や2では、日本経済にはむしろプラス効果がある(漁夫の利を得る!)ことになっている。シナリオ3で自動車輸出が被害を受けるとさすがにマイナスとなるが、それも限定的である。

どのシナリオを見ても、米国経済が最大の被害国となる。これは全ての国からの報復措置を受ける「ハブ&スポーク効果」によるもので、いわば「自業自得」といえよう。





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