オピニオン:米中対立下の日本株高シナリオ=武者陵司氏 – ロイター

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武者陵司 武者リサーチ代表

[東京 17日] – IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)など新たなイノベーションブーム到来に際し、周辺・基盤分野で数多くの「オンリーワン技術」を持つ日本は国際分業上、極めて有利なポジションに立っていると、武者リサーチの武者陵司代表は語る。

そうした日本の優位性は、経済覇権を巡る米中の駆け引きを背景に、今後いっそう際立ってくる可能性が高いと指摘。日本株市場にとっても、中長期の上昇要因になると分析する。

同氏の見解は以下の通り。

<3拍子そろった日本株、年末2万7000円も視野>

日本株市場は、相場需給の好転、地政学環境の改善、日系ハイテク産業の国際優位性という3拍子がそろったことで、年後半に向けて大幅な上昇が見込めそうだ。日経平均は秋口には2万5000円近辺、年末には2万7000円も視野に入るのではないかと考える。

3拍子のうち、特に注目すべきは、日本の国際分業上の優位性が鮮明化してきていることだ。この点を示す材料には事欠かない。

まず、トランプ米政権が3月に発動した鉄鋼・アルミニウムの輸入制限措置(高関税賦課)から日本は適用除外されなかったが、深刻なダメージは今のところ広がっていない。日本製の高級鋼材は代替がきかないためである。

第2に、中国が日本に急接近していることだ。4月には、8年ぶりに「日中ハイレベル経済対話」が再開した。背景には、米国との貿易戦争に直面した習近平政権の「気づき」があると思われる。

周知の通り、中国の産業界は急速にハイテクシフトを進めており、デジタル機器の製造分野で、韓国や台湾と真正面からぶつかり、ドイツとも競合色を強めている。一方、素材・部品・製造装置などハイテクニッチの高度技術分野に注力している日本は、中国との相互補完性が高く、習政権からすれば、相性の良いビジネスパートナーとして映り始めていることだろう。

同じことは、実は日米間の経済関係にも言える。1兆ドルを超す巨額の米国債を保有している点は中国と同じだが、決定的に違うのはインターネット、スマートフォン、航空機、先端軍事品、マイクロプロセッサー(MPU)などのハイテク中枢分野を米国に対し広く開放し依存している点だ。実際、米国企業は、そうした分野において、日本市場で圧倒的なプレゼンスを確保している。そして、多くの米国企業にとっても、日本の高機能素材・部品・製造装置は必需品だ。

それでいて、日本の経常黒字の大半は貿易黒字ではなく、海外配当金や債券利子などの所得収支の黒字だ。確かに日本の対米貿易黒字は688億ドル(2017年)と大きいが、中国の3752億ドル(同)に比べれば5分の1にすぎない。

貿易黒字は相手国の雇用を奪っていると非難されても仕方ないものの、所得収支の黒字は相手国における投資を通じて現地雇用を創出していると言える。日本に恥じるところはなく、上述したようなハイテクビジネスの日米相互補完性も考えれば、トランプ政権が有権者向けのレトリックは別として、対日通商交渉において本気で高圧姿勢を貫く可能性は考えられない。

<周辺・基盤分野で勝ち残った日本企業>

それにしても、日本の名目国内総生産(GDP)がここ20数年間、ほぼ500兆円で横ばいだったにもかかわらず、企業収益が劇的な改善を示している理由は何か。

直近の企業収益は営業利益対GDP比で12.2%と、過去最高を記録。また、日銀短観における大企業製造業の2017年度経常利益率(計画)は8.52%と、バブル景気のピーク(1989年度)の5.75%、リーマン・ショック直前のピーク(2006年度)の6.76%を大きく上回っている。

背景には、製造業の大変身がある。1980年代までの日本は価格競争力にモノを言わせ、主要分野において世界シェアナンバーワンの地位を獲得した。しかし、このモデルは米国によるジャパン・バッシング(日本たたき)、85年プラザ合意後の超円高、韓国勢や台湾勢などのキャッチアップによって、立ち行かなくなった。かつて日本が支配した半導体、液晶、パソコンなどの量産型ハイテクビジネスでは、日本勢のグローバルプレゼンスは今や見る影もない。

では、現在の日系ハイテク産業の稼ぎ頭が何かと言えば、それは素材・部品・製造装置などだ。例えばデジタルが機能するには、センサーやアクチュエーター(モーター)などのインターフェースが欠かせない。また、素材・部品・製造装置などの出来が最終製品の優劣を左右するのは言うまでもないが、日本製はその点で圧倒的なクオリティーを提供している。日本は量産ビジネスでは負けたものの、高付加価値のオンリーワン技術で見事に勝ち残ったのである。

こうしたポジショニングが、IoTやAIなどの新たなイノベーションブーム到来に際して、有利に働くことは容易に想像がつく。中国、韓国、台湾、ドイツも日本の周辺・基盤技術に大きく依存している。2018年以降は、日系ハイテク産業の優位性がさらに際立つのではないか。特に米中が経済覇権を巡って綱引きを繰り広げていくとすれば、双方が日本のオンリーワン技術を欲して、さらにすり寄ってくる可能性がある。

<2026年の米中経済逆転は起きない>

最後に株式市場について補足すれば、足元のテクニカル指標は大きく好転している。まず、空売り比率の急低下は、株価の底入れと急騰を示すシグナルだ。また、外国人の日本株売りは2―3月に9兆円と空前の規模に達したが、その過半は先物売りであり、買い戻しが予想される。

加えて、懸念要因とされてきた円のショートポジションの積み上がりも一掃された。米長期金利も節目の3%台に達しており、企業業績を後押しする円安の進展が期待できる状況となっている。

気になるリスクは、トランプ政権の中国たたきが度を越して、中国景気を腰折れさせることだが、最近の動きを見る限り、それは杞憂だろう。例えば、米商務省は4月、中国の通信機器大手・中興通訊(ZTE)がイランや北朝鮮に対し通信機器を違法に輸出していたとして、米企業によるZTEへの半導体などの製品販売を7年間禁止する制裁措置を講じたが、トランプ大統領はその後、制裁緩和を示唆している。

もちろん、強気の通商・外交政策で有権者にアピールしたいトランプ政権が、中国との融和路線にすぐさま舵を切るとは思えない。むしろ、その逆で、「揺さぶり」を得意とするトランプ流交渉術によって、中国の譲歩を巧みに引き出し、米国優位のパワーバランスが崩れないようにするのが対中戦略の眼目だろう。その意味で、米中貿易戦争は長期化する可能性が高いとみるべきだ。

ただし、中国が巨額の対米貿易黒字によって長足の成長を遂げてきたという事実を考えると、今後苦しい立場に追い込まれるのは中国だろう。かつての日本がそうだったように、次第に経済力を削がれていく可能性が高い。

結果的に、2026年と目されていた米中経済規模の逆転は起きないのではないか。それどころか、仮に中国が恒常的な経常赤字国に転落するようなことになれば(1―3月は17年ぶりの赤字)、巨額の対外債務も重しとなり、近い将来、より深刻な人民元安ショックを招く可能性も否めないだろう。

いずれにせよ、中国という「世界の工場」頼みだった国際ビジネスのリアライメント(再編)は、米中貿易摩擦の高まりや中国の労働コスト上昇などを受けて、今後5年程度かけて急速に進んでいくと思われる。中国自身も変化が必要であり、高付加価値ビジネスの模範として頼る先は日本になろう。このことも、長期の日本株高に資する地政学環境の変化である。

*本稿は、特集「高まる貿易戦争リスク」に掲載された武者陵司氏へのインタビューです。同氏の個人的見解に基づいています。

武者陵司 武者リサーチ代表(写真は筆者提供)

*武者陵司氏は、武者リサーチ代表。1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券に入社。87年まで企業調査アナリストとして、繊維・建設・不動産・自動車・電機エレクトロニクスなどを担当。その後、大和総研アメリカのチーフアナリスト、大和総研の企業調査第二部長などを経て、97年ドイツ証券入社。調査部長兼チーフストラテジスト、副会長兼チーフ・インベストメント・アドバイザーを歴任。2009年より現職。

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 5月17日、武者リサーチの武者陵司代表は、IoTやAIなど新たなイノベーションブーム到来に際し、周辺・基盤分野で数多くの「オンリーワン技術」を持つ日本は国際分業上、極めて有利なポジションに立っていると指摘。写真は日本円、中国人民元、米ドルの紙幣。韓国で2010年10月撮影(2018年 ロイター/Truth Leem)



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